高校生でアイドルで。
「はぁ?!仕事って…ちょっと待ってくださいよ!
オレは休業中の身ですよ?!」
「ごめんね〜天国くん。断れなくて。じゃあお願いね♪」
「断れなくてってそんな簡単な!って、ちょっとまってくれよおばさ…。」
プツッ ツーツーツー…。
「…おばさんのバカ…。」
####
ガヤガヤ
「あれ〜?何かすんごい人だな〜〜〜。」
「ホントねえ、イベントでもあったかしら?ここ。」
久しぶりの休日を、野球部の仲間と共に街で過ごしていた
セブンブリッジ学院3年、鳥居剣菱は急に多くなった人だかりに声を漏らした。
一緒にいた相棒、中宮紅印も剣菱の言葉に頷きながら、ふとその場所に気づいた。
「あら?確かここって今日開店するっていうブランド店よねえ?」
「あ〜、そういえば…。」
言われて剣菱も思い出した。
最近コマーシャルやニュースの話題で頻繁に目にしていた店だ。
確か海外ブランドの店で日本では初めての開店、ということで話題となっていた。
男性向けの高級カジュアルが中心で、アメリカではかなりの人気を博しているはずだ。
そして、日本でもファンは少なくない。
そこまで思い出したところで、二人の後ろを並んで歩いていた紅印の双子の弟、中宮影州と同チームの霧咲雀が目の色を変えた。
「マジ?『OWN』じゃねえか!なあなあ、ちょっと見てこうぜ?!
なあ雀!!」
「同感。拝見希望。」
そう言うと二人はそろって人だかりに向かっていった。
「こーらっ、影州!雀!」
紅印が声をかけたところで既に遅く。
二人は人だかりに埋もれていった。
「もう行っちゃったアルよ。でもホントすごい人ネ。
そんなに人気あるカ?そのブランド。」
その後ろについていた王桃食は、呆れたように感心したように言った。
「まあね、結構有名なのは確かだけど…でも、ちょっと変よね。」
「何が?」
「ここに集まってるコたちよ。『OWN』ってメンズのブランドよ?
その割には女のコもハンパじゃなく集まってるじゃない?」
そう、集まっているのは男性だけじゃなく女性もかなりの人数だ。半々と言ってもいいだろう。
しかも見たところ、年齢層もかなり幅広い。
若者向けのメンズブランドの店に集まるには不自然だった。
「へえ〜?何かオープニングイベントでもあるんじゃない〜?」
「多分、そうね。でも誰が…。」
次の瞬間、彼らの疑問はあっさりと解消された。
『お待たせしました!!では『OWN』日本第一号店、オープン特別ゲストをご紹介しましょう!
超人気スーパーモデル、「HEAVEN」の登場です!!』
ワアアアアアアア!!!
その瞬間、街全体がゆれたかと思うほどの歓声が湧きおこった。
その歓声の中。
特別ゲスト「HEAVEN」 本名 猿野天国が登場した。
「て、てんごく君?!」
「きゃあああD ナマHEAVENは初めて!!」
驚きの声と歓声の声を上げるのは剣菱と紅印だった。
「って、紅印てんごく君知ってるじゃん!!」
「何言ってのよ、モデルとしての天国ちゃんは初めてじゃない!
こういうのって全然違うわよ?!」
「でも、てんごく君に変わりは…。」
そう思い、剣菱は改めて(長身を生かし)HEAVENに視線を戻した。
そこには。
「……!!」
剣菱の見たことの無い、強烈とも言える存在があった。
それが「HEAVEN」だった。
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この日「HEAVEN」こと天国は、昔から頭のあがらない沢松の母に頼まれ、
ブランド店の特別イベント(撮影可)に強制参加させられたのだ。
自分は休業中の身で、身体の形もモデル時代とは少なからず変わっているので断ろうと思ったのだが…。
無理だった。
勿論天国も世界を舞台に活動してきたプロ中のプロである。
引き受けたからには今できる最高の仕事をしなければならない。
そして舞台に出て、軽い挨拶を済ませると。
天国は「HEAVEN」の顔になったのだ。
ざわめきの中でシャッターを切られる天国は、完全にプロの顔である。
服は、というとシンプルながらブランドらしく品のよいブルーのシャツに黒いパンツ、そしてシルバーアクセ数点。
それだけの装飾品であるが、身に纏うもの全てを魅せ、なおかつ自分自信をもこの上ないと思えるほどに美しく見せていた。
「「「「「……。」」」」」
「くぁ〜〜HEAVENはやっぱりいいよなあ!!
カッコよすぎだって絶対!猿野とは思えねえ!!」
「美麗 可憐 優美…。」
「すごいアル…ホントに猿野とは思えないネ。」
「美しいわぁ…素敵過ぎよ天国ちゃんV」
「…これが…すごいんだな〜…。」
5人はただ「ホンモノ」の魅力に酔いしれた。
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「ではここで、オープンを記念しましてお客様の中で何名かHEAVENさんとお写真をとっていただきましょう。」
ざわっ
そのざわめきに5人も我に帰った。
そして…。
「お手持ちの整理券の番号で当選された5名の方にお写真をお願いしましょう。」
「よしっ!!」
「確認。」
「あ、アタシもいつの間にか持ってたわ。」
「オレもだ〜。」
「朕もヨ。」
そして当選番号が発表された。
最初の4つの番号は誰も当たっていなかった。
しかし最後の番号は…。
『最後の1名様は…5498番の方です!!』
「きゃああっ!!嘘?!やったああ!!」
「何ッ?!兄貴当たったのかよ!!」
「紅印 変更 希望…。」
「嫌よ。」
「うわ〜紅印今世紀の幸運見事に使い果たしたアルね〜〜。」
「お黙り!」
「紅印…。」
「何よ、剣ちゃん。」
「うらやましいいいい〜〜〜。」
「おほほほほほっ!!」
なんと当選してしまった紅印は、仲間の羨ましそうな視線を一身に浴びてHEAVENのいる舞台へ向かった。
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「え…!!」
「さて最後の方は…おや、ハンサムな方ですね〜。どうぞこちらへ。お所とお名前をどうぞ。」
「埼玉県○▽市、中宮紅印よDよろしくねD」
(ね…姐さん…。なんでここに。)
司会者に気づかれないように驚く天国に、紅印は軽くウインクした。
そしてペア撮影が行われたのだが。
紅印とHEAVENの撮影は…紅印の妖しげな容貌もあいまって。
客の方から撮影を望んでくるものもいたのだった。
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「あーっ楽しかったvねえちゃんと撮っててくれた?!」
「不本意だけどな。」
「同感…。紅印邪魔…。」
「ま、二人ともとっても綺麗だったからいいネ。」
「いいなあ紅印〜〜…。」
撮影後、開店セールを楽しんだ後、紅印たちは街のカフェに落ち着いていた。
派手だが、5にんの美形が座っている姿はなかなかに目立つ。
その5人に、一人、近づく者がいた。
「こんなとこにいた。」
「てんごく君?!」
「きゃっどうしたのぉ?!」
「HEAVEN…?!」
「ヘヴ…いや、猿野だな。どうしたんだ、こっち来ていいのか?」
「朕たちは歓迎するアルが?」
そこにいたのは先ほどの喧騒の中心。
HEAVEN…だが、先ほどまでのオーラは今は落ち着き。
男子高校生の猿野天国がいた。
「ったく、あんなところでねーさんが出てくるとは思わなかったですよ。
あれから大変でしたよ?姐さんをスカウトするって奴が続々出てくるし。」
「兄貴をスカウトだぁ?」
「あらんVアタシの魅力もまんざらじゃないわねえ。」
「オレはばっくれてましたけど、そのうちかぎつけてきますよ。
嫌ならオレが裏からなんとかしますけど…姐さん、いいですか?」
天国の用件はこれだった。
先ほどの撮影で、天国には負けるがかなりの存在感を見せた紅印をモデルとしてスカウトしたいという者が何人か出てきたのだ。
勿論天国は紅印が知り合いであることは言わなかったが。
彼らの情報網では、常日頃から目立つ彼を見つけることはそう難しくはないだろう。
最も、ファッション業界で確固たる名をもつ天国が干渉したら話は少なからず変わっていくが。
だから、天国は紅印の意志を聞きに来たのだ。
「そうね。そういうのも悪くないけど…お断りさせてもらうわねD
アタシは男のモデルになるのはちょっと無理よ。」
「ま、もったいねえけどそうだろうな。」
「同感。」
「そうだね〜。紅印らしくはできないかな。」
その言葉に、天国は少し微笑んで。
連絡を入れたのだった。
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「今日は悪かったね〜お仕事の邪魔しちゃって。」
「別に邪魔はされてないっすよ?
ま、ちょっとびっくりしましたけどね。」
セブンブリッジ学院の面々と別れた後、同じ方向である剣菱と天国は二人で家路についていた。
「それと…ありがとう。」
「え?」
「紅印の事だよ〜。気を使ってくれて…嬉しいよ。」
「ああ、そんなの気にしないで下さい。オレもちょっとおせっかいかなとは思ったくらいだし。」
「ううん、嬉しかったよ。」
「あっ。」
ふと、天国は剣菱に腕を引かれ、その反動で振り向いた。
その瞬間。
触れるだけのキス。
「…剣菱さん…何を…。」
ちょっと困ったように、少し照れたように天国は顔を赤らめた。
「お礼…にはなんないけどね。あ、むしろオレの方が高くつくかな〜?」
「いや、それは別に…。」
「ふふ、てんごく君はホントに優しいね〜〜。
よし。今日はうちでご飯食べて行きなよ。
凪の手料理で払わせてもらうよ〜〜。」
「…ふふっ。のった!」
天国は花のように笑った。
それはHEAVENの魅力とは違う、天国の魅力…。
(うん、オレはこっちの方が好きかな〜。)
そして剣菱は、誰も見たことの無い幸せな笑みを こぼした。
END
久々のモデルシリーズです!
先のシリーズリクエストをすっとばしてこちらを先にアップさせていただきました。すいません。
相変わらず業界事情はまったく知りませんので、むちゃくちゃなところもあるかと思いますが…。
すごく書いてて楽しかったです!
冴咲さま、長い間お待たせして申し訳ありませんでした。
素敵なリクエスト本当にありがとうございました!!
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